アパレル企業特集

2020.01.08

BIRKENSTOCK、Quorinest(株式会社ベネクシー)<前編>

スタッフの給与ベースアップに踏み切ったベネクシーが
「好きを諦めさせない」ために行ったこと

ドイツ発の機能性シューズブランド「BIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)」、永く愛用するほどに価値が高まる商品を取りそろえるセレクトショップ「Quorinest(クオリネスト)」を運営する株式会社ベネクシー。同社は2019年11月、社員の給与ベースアップを行いました。その背景には何があったのか?それによって今後目指したい企業の姿とは?代表取締役社長の小野 道夫さん、取締役副社長の海野 祥之さん、管理部 人事総務課 マネージャーの東 真紀子さんにお話を伺いました。

“「カイテキ」で夢のあるライフスタイルを実現する”
会社の理念を体現するための人事課題とは

まずはベネクシーについてご紹介いただけますか?

小野:ベネクシーは、東証JASDAQに上場している三栄コーポレーションという企業のグループ企業です。
もともとは三栄コーポレーションの一部門で、ビルケンシュトックの卸売・小売事業を行っていたのですが、何度か訪れたビルケンシュトックブームにおいて、ある意味売れすぎてしまったことで、ブランド価値が大きく下がってしまいました。それを立て直すために生まれたのが当社です。
分社化後は差別化戦略として、安売りをしない、セールも極力しない、直営店にこだわる、ブランドや商品の魅力をお伝えしお客さまにとっての一足をご提案する、というところに力を入れ、ブランドが持つ本質的な価値を再度高めることに注力しました。

現在は大きく4つの事業を展開しており、一つ目は「BIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)」の独占的なフランチャイジー事業、二つ目は2016年に立ち上げたセレクトショップ「Quorinest(クオリネスト)」の店舗事業、三つ目は海外ブランドの卸売事業、四つ目が修理・アフターケア事業です。

海野:すべてのキーとなるミッションステートメント(経営理念)は「カイテキ」で夢のあるライフスタイルを実現すること。我々のビジネスはモノを売るだけではなく、接客を通じてモノや体験として生活をより豊かにしていただきたい、使い込むことでより価値が増していくようなモノを提案していきたい、という意味を込めています。
ビルケンシュトックをはじめ、当社で扱うすべてのブランド・商品に共通するのは、使い込むほどに愛着が沸く高い品質と、長く付き合える機能性と快適性です。

取締役副社長の海野 祥之さん。MD出身のため、ブランドや商品、サービスへの思いは誰よりも強い。

私自身、ビルケンシュトックのファンで、直営店で何度も接客を受けていますが、商品のクオリティはもちろん、サービスの手厚さにも驚きました。

小野:ビルケンシュトックは単なるファッションアイテムではなく、機能性も備えています。販売スタッフは、ブランドや商品、足に関する専門知識、お客さまに合う一足を見つけるためのフィッティングスキルなど、幅広く、深いスキルや知識を身につけなければなりません。ブランドの伝道師としての役割を担うため、ブランドが持つ魅力に共感し、思い入れの深い方と一緒に働きたいという思いで、採用や人事施策を行ってきました。

しかしここ数年、小売業の宿命である離職率の高さに対し、計画通りの採用ができなくなってきました。大きな要因は、市場価値として販売職の給与平均が上がり、採用競争力が低下してしまったことでした。このままだとベネクシーは優秀な方々と一緒に働くことができません。人事とも会話を重ね、早急に人事制度の見直しをしないといけないという考えに至りました。

海野:根本的な人材不足を解消するには、離職率を改善することも重要です。
当社はビルケンシュトック、クオリネスト、アフターケアと、すべてにおいてレベルの高いサービスを目指しています。そのため、他社と比べてやることや考えること、付加価値として身に付けないといけないことがたくさんあります。それを前向きに「奥が深くて面白い」とやりがいを感じるスタッフが多い一方で、現実として「割に合わない」と辞めていくスタッフが多かったのも事実です。今回の給与改定は、採用競争力を高めるとともに、その内部ギャップを埋めたいという思いもありました。

近しい課題を抱えている企業は多いですが、なかなか踏み切れないものだと思います。ご決断にいたるまでには大きな覚悟が必要だったのではないでしょうか。

小野:課題として認識した以上、このプロジェクトは強い意志を持って絶対にやり遂げないといけない、という思いでした。そのため、トップダウンの形で、2019年度の予算編成方針における大きなテーマとして取り上げ、各部署から必要なメンバーを集め、給与改定プロジェクトを立ち上げました。


社員の声を聞くことで分かった、働きやすさや働きがいのある『環境』の必要性

給与改定プロジェクトはどのように進めていったのでしょうか?

東:給与改定を実現するには、親会社である三栄コーポレーションの承認が必要です。その準備として、さまざまな裏付けデータを集めたり、スタッフの意見を吸い上げたりし、ベネクシーにとって必要な改定だということを資料にまとめました。

どのようにスタッフの意見を集めたのでしょうか?

東:まず、匿名の目安箱を設けて組織の改善アイデアを募ったり、社員満足度調査で会社や店舗、制度のことなどについて率直な意見を書いてもらったりと、社員の声を集めました。それによって、満足していること・そうでないことについて、当時のベネクシーの状況が良く分かりました。
次に、「強い気持ちで会社を改善していきたいという意見が欲しい」という思いから、匿名の目安箱を記名性にしたところ、こちらも一定の意見が集まりました。実名での提案は勇気がいることだと思いますが、その勇気を持って届けてくれた意見は、現場のリアルが詰まっており、それこそが我々が本当に知りたかったことでした。

具体的にはどういう内容だったのですか?

東:細かくは色々ありますが、総じて感じたのは、みんなが変えてもらいたいのは、単純に『制度』ではないということでした。もちろん、突き詰めていくと『制度』によって解決できることも多いのですが、本質的に求めていたのは、働きやすさや働きがいのある『環境』でした。
それが分かったとき、給与改定に留まらず、もっと広い視野を持ってスタッフの働きやすさ、働きがいのある環境を作っていかなければならない、と改めて感じました。

採用難易度が上がったことでスタートしたプロジェクトが、その枠を超えて働く環境を良くしていくプロジェクトになったのですね。

東:そうなんです。ビルケンシュトックが好き、お店の仲間が好き、だけど今のままでは続けられない…それは給料に限らず、ライフイベントなど様々な意味で、どんなスタッフにも起こり得ることです。そのときにできる限り会社が寄り添うことで、長く続けていただきたい。そして優秀な未来のスタッフの方々と出会いたい。という思いを込めて、私たちはこのプロジェクトに「好きを諦めさせない」というキャッチコピーを付けました。

「好きを諦めさせない」とても素敵なコピーですね。キャリアに見合った給料になれば…子供が生まれても働けたら…そんなスタッフの方々に、諦めなくていいんだよ、と言える会社にしたいという思いが伝わってきます。

小野:単に採用に苦戦している、離職率が高い、という事象を解決するだけであれば、もしかすると別の施策になっていたかもしれません。しかし社員の意見を拾い上げ、今回何を成し遂げたいかを改めて考えた結果、スタッフの「仕事が好き」という思いを実現できる環境を用意することが、会社にとって最も大切だということにたどり着いたのです。

管理部 人事総務課 マネージャー 東 真紀子さん。「好きを諦めさせない」のコピーは東さんがこれしかない!と思いついたもの。

ライフスタイルを「カイテキ」にするための4つの事業

BIRKENSTOCKフランチャイズ事業

ビルケンシュトックは1774年創業、240年以上の歴史を有するドイツのフットウェアブランドであり、その真髄は独自のインソール「フットベッド」にあります。解剖学的な観点から作り上げられたこの「フットベッド」は、足や関節、足裏を保護すると同時に足の筋を鍛え、自然な歩行と足の動きを理想的にサポートします。
ベネクシーはビルケンシュトック国内独占フランチャイズ事業者として日本全国に70店舗超の専門店を運営し、ビルケンシュトックフットウェアを通じて「健康で快適な暮らし」を提案しています。

Quorinest店舗事業

「これまで経験・体験したことのない新たな快適」をテーマに、ベネクシーによるオリジナル事業としてスタートした、セレクトショップ「Quorinest(クオリネスト)」。国内・海外問わず「快適」をキーワードに、独自の視点で厳選した製品群と世界観が特長です。

※「Quorinest」は、‘Quality’(上質)、’Originality’(独自性)、’Nest‘(集合場)を合わせたベネクシー登録商標です。

海外ブランド卸売事業

フランスのベレーブランド「LAULHERE(ロレール)」をはじめ、オランダのエコフレンドリーなレザーブランド「O MY BAG(オーマイバッグ)」、イギリスのナノテクノロジーを用いたレザー・ファブリックケアブランド「LIQUIPROOF(リキプルーフ)」など、一過性のファッションやブームに左右されない、永く付き合うことのできる機能と快適性を備えた国外ブランド製品を自社輸入し、日本全国へ展開しています。

修理 / アフターケア事業

「ご愛用いただくことで足に馴染んだ特別な一足を、より価値あるものへ。そして永く履き続けていただきたい…」その想いからベネクシーでは修理専門の自社工房を構え、お預かりしたフットウェアをスタッフが一足一足心を込めて修理しています。また、各ブランド様の製品検品や修理等の受託業務も行っています。

BIRKENSTOCK、Quorinest(株式会社ベネクシー)

BIRKENSTOCK、Quorinest(株式会社ベネクシー)

事業内容 BIRKENSTOCKフランチャイズ事業
Quorinest店舗事業
海外ブランド卸売り事業
修理・アフターケア事業
事業所 東京都千代田区九段北4-3-8 市ヶ谷UNビル 3F
創業 2002年5月
代表者 代表取締役社長 小野 道夫
従業員数 333人(2019年12月現在)
資本金 9,000 万円

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